大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成8年(行ツ)29号 判決

福井県武生市家久町四一号一番地

旧商号大竹貿易株式会社

上告人

オリオン電機株式会社

右代表者代表取締役

矢野榮幸

右訴訟代理人弁護士

田宮敏元

香山仙太郎

神戸市中央区中山手通二丁目二番二〇号

被上告人

神戸税務署長 望月明

右指定代理人

山﨑秀義

右当事者間の大阪高等裁判所平成六年(行コ)第七六号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成七年九月二一日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田宮敏元、同香山仙太郎の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文)

(平成八年(行ツ)第二九号 上告人 大竹貿易株式会社)

上告代理人田宮敏元、同香山仙太郎の上告理由

原判決は、法人税法二二条四項に規定する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に反する違法の判決である。

上告理由第一点 原判決は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の立法趣旨並びにその解釈を誤っている。

一、原判決は、「法人税法二二条四項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される」(その引用する一審判決二〇枚目裏二行目より、同裏六行目)とするが、法人税法は、適正な所得計算を基礎として、これを課税所得としているのであって、適正な所得計算がなされる限りにおいて、、不公平な課税所得の計算とはなり得ない。一般に公正妥当と認められる会計処理の基準は、適正な所得計算に適しているため、これにに従うべき旨規定されたものである。原判決のように、公平な所得計算という要請に反するものでない限り、と限定して解釈すべき何の法的理由もない。

二、ここに云う「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、長い歴史的経験を経て、国際的な企業会計の実務の中に慣習として発達したものであって、学術的にも科学的根拠に基づき、公正妥当と認められている会計処理の基準である。大蔵大臣の諮問機関である企業会計審議会で統一され公表されている企業会計原則は、この「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を要約したものである。そもそもこの企業会計原則は、公認会計士が公認会計士法及び証券取引法に基づき財務諸表の監査をなす場合において従わなければならない基準として設定されたものであるが、企業の財政状態並びに経営成績を正確に把握するための科学的基礎を与えるものであるところから、適正な利益を算定することを目的とする、総べての企業会計に適用される基準として、商法においても、証券取引法においても、その他企業利益を算定することとなる総ての法規に採用されている。法人税法にあっても、同法七四条一項において、確定した決算に基づき、課税標準である所得の金額または欠損金額を申告すべきであるとしているので。この「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によるべきものとしたのである。何となれば、ここに云う確定決算とは、企業会計における損益を明確にしたものに他ないからである。これを基礎として、同法二二条二項及び三項の別段の定めによる調整をなし、課税標準たる所得を算定し申告すべきこととなるのである。従って、同条二項に定める商品売上等収益の額、同条三項に定める売上等原価、販売費、一般管理費その他の費用とは、確定決算上の収益費用を指すのであって、法人税法、租税特別措置法、その他の特例法による別段の定めの無い限り、法人税の課税標準たる所得計算上の収益費用となるものである。故に、同条四項における「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、この確定決算をなすにあたっての遵守すべき会計処理の基準であって、課税標準たる所得計算上の租税目的にかかる合理的な基準ではない。「法人税法に定めがない場合にまで、右の規範と異なる会計処理の基準により当該事業年度の収益の額を計算すべき旨を同法二二条四項が定めていると解することは、同法七四条一項の趣旨との間にそごを生じ、法人税法の解釈上不合理である」とする平成五年一一月二五日最高裁判所第一小法廷判決裁判官味村治の反対意見はこれと同旨である。

上告理由第二点 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準においては、収益の実現を以て収益計上の基準としており、収入とすべき権利の確定をもって、収益計上の基準とはしていない。権利の実現は収益の実現ではない。従って、権利の確定時期が、取引の経済的実態から見て如何に合理的なものであっても、これを以て収益計上基準とすることはできない。

一、原判決は、収益は、その実現のあった時、すなわち、その収入とすべき権利が確定したときの属する事業年度の益金に計上すべきであるとする(一審判決二〇枚目表一一行目より、同裏二行目)。そして、収入とすべき権利とは、売買代金の請求権、確定とは、この権利行使が可能となったことであり(一審判決二五枚目表一行目より同裏一〇行目)、可能となったか否かの判断は、法律上に限らず、取引の経済的実態から見て合理的な基準によるべきである(一審判決二〇枚目裏六行目)としている。しかし、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準は、企業の適正な経営成績即ち損益計算と、適正な財政状態即ち資産・負債・資本からなる貸借対照表とを表示することを目的とするものであるが、その主眼は適正な経営成績即ち企業損益の把握にある。配当も、投資も、租税もこれをその対象としているからである。これに対し財政状態を示す貸借対照表は、適正な経営成績を誘導するための副次的なものであって、その財産構成、支払能力等の重大な目安となるが、清算を目的とするものではなく、破産財団のような、法律上の確定した財産を表示するものではない。それは継続企業(going concern)を前提としたもので、正規の簿記の原則としての複式簿記から、適正な損益計算をするために誘導されたものである。複式簿記においては、、収益が実現すれば、その権利の行使が可能となったかどうか即ち確定したかどうかに拘らず、貸方に売上を計上すると同時に、借方に売掛金として収入とすべき権利を計上しなければならないのである。即ち何時収益が実現したかによって収益計上の時期が決まるのであって、収入とすべき権利が確定する時期に収益計上の時期が決まるのではない。尤も、収入とすべき権利の確定と、収益が実現する時と一致する場合もある。しかしその場合でも、収益が実現したから収益に計上されるのであって、権利が確定したから収益に計上されるのではない。権利が確定しても、収益が実現しない限り、これを収益として売上に計上できず、この権利を売掛金として資産に計上することはできない。例えば、売買契約が成立し、法律上その債権が確定しても、未だその商品を取得せず、その原価も未定の場合は、会計上収益が実現したとすることができず、これを益金に計上することはできない。又逆に、商品の出荷・運送・船積みのごとく収入とすべき権利が確定しなくても、今日においては、それが到着し買主が受領することが確実視されるところから、会計上収益が実現したとされ、これを益金に計上することもできるのである。以上の通り、収益は、その実現のあった時の属する事業年度の益金に計上すべきものであるが、その収入とすべき権利が確定したときの属する事業年度の益金に計上すべきものではない。原判決は、「右の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかとという基準を唯一の基準としなければならないとするのは相当でなく、取引の経済的実態から見て合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も右会計処理を正当なものとして是認すべきである」とするが、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にあっては、収益の実現を以て収益計上基準としているのであるから、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかとという基準は勿論のこと、取引の経済的実態から見て合理的なものとみられる収益計上の基準であっても、かかる権利確定基準は、法人税法二二条四項からは、法人税法上正当な会計処理とはなり得ない。

上告理由第三点 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準では、商品の引渡のあったときに収益が実現したものと解し、これを以て売上収益の計上基準としている。

商品を買主に引き渡す時には、その商品も特定され、その売価及び原価も決まっており、買主もこれに対して代価を支払うところから、その利益が実現したものとして、これを収益に計上することが許されるのである。その商品が現物の商品であっても、貨物引換証、船荷証券、倉荷証券であっても同様である。これを取得した買主は、この商品の所有権を取得し、自ら運送会社、船会社、倉庫会社からこの商品を受け取ることができ、又これを他に転売することもできることになる。これに反し、売主は商品の所有権も占有権も失うことになり、現物の商品を引き渡したのと、なんら変わりがないからである。又この引渡が、現実の引渡であっても、簡易の引渡であっても、指図による引渡であっても、占有改定であっても同じである。

しかし、企業会計における長い歴史から、かかる買主に対する直接の引渡でなくても、運送会社、船会社に商品を引き渡しても、買主に確実に到着することが経験的に明らかになってくるにつれ、買主に対する到着を待たずに、かかる運送機関に対する引渡があれば、この利益が実現したものとして、出資者等に利益の分配をする慣行が生じて来た。一般に公正妥当と認められる会計処理の基準においても、この慣行を是とし、商品引渡基準を確守しながら、その引渡を直接買主及びその代理機関に対するものに限らず、これと同視し得る運送機関、金融機関にまで拡大し、今日においては、自社倉庫からの出荷迄もこの引渡と認めている。そして、その基準の選択適用については、当該会社の自己が最も適すると思われるものにつき、その自主的選択を認めている。しかし如何なる引渡基準を採用するにしても、毎期継続してその基準を採用することを義務付け、正当な理由のない限りその変更を禁じている。継続性の原則により、利益操作は排除され、各期間損益は正しく計算され、通算すれば如何なる基準を採用しても、同じ損益結果となるからである。法人税法にあっても、その採用する基準により、納税者間において、各事業年度に差異を生じても、翌事業年度に修正され、通算すればなんら課税負担に不公平を生じない上、株式取引の国際市場、これに対応する証券取引法、商法が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い、財務諸表規則、商法計算規則を定めるに至って、これとの整合を図るため、同法二二条四項が特に設けられたものである。従って、法人税基本通達においても、販売目的の商品については、その引渡を以て収益計上基準とし、継続性の原則に基づく、企業の自主的選択適用を認めており、総て法人の売上収益は、これによって取り扱われている。。

これに対し、原判決は、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされているにとどまり、原則的な収益計上基準について明文の規定をおいていないとし、法人税基本通達二-一-一及び同二-一-二に定める商品引渡基準については、あくまでも収益を把握するための一つの基準にすぎないとみるべきであるから、収益の計上基準それ自体については、取引に関する社会経済的実態及び権利実現の内容に即し、個々の具体的取引過程においてどのような条件が充足されたときに収益が実現したと認識すべきかという観点から合理的な基準を採用すべきことになり、収益はその実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解するのが相当というべきである。としている(原判決一三枚目裏二行目より一四枚目裏五行目まで)。

しかし、法二二条四項は、明文を以て「当該事業年度の収益の額及び前項各号に定める額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」としており、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によって収益計上基準も一義的に決定されるのであるから、これについて明文の規定をおいていないとすることはできない。原判決の掲げる法人税基本通達二-一-一は、この明文の規定に従い、棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡があった日の属する事業年度の益金の額に算入するとし、同二-一-二では、この場合において、棚卸資産の引渡の日がいつであるかについては、例えば出荷した日、相手方が検収した日。相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売にかかる契約の内容等に応じその引渡の日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとするとしている。これは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準における収益計上基準を示したものである。

同通達二-一-一は「その引渡があった日の属する事業年度の益金の額に算入する」としており、算入することができるとはしていない。又同二-一-二はこの引渡の日を例示し、その一般的解釈として、当該棚卸資産の種類及び性質、その販売にかかる契約の内容等に応じ、その引渡の日として合理的であると認められる日としている。したがって、同通達は、商品の引渡をもって売上収益の計上基準とすることを明言しているのであって、これをもって、原判決のように、取引の社会経済的実態及び権利実現の内容に即し合理的であるものと読み替え、商品の引渡という概念は、あくまでも収益を把握するための一つの基準にすぎないということはできない。

そもそも権利確定基準は、なんら歴史的背景のないものであり、上告理由第二点で論証したごとく、収益実現基準とはなり得ず、従って収益計上基準ともなり得ない。又これによれば、収益計上基準は権利が確定した時点に固定され、企業の自主性は認められず、継続性の原則などは無用のものとなる。法律上の確定の場合は勿論のこと、原判決の言う合理的確定の場合も同様、合理的に確定した時に固定されるのである。原判決の随所に「既に確定したもの」(例えば、一審判決二六枚目表七行目)とあるところからも明らかである。原判決は、上告人は法律上の確定を唯一の基準とすることを前提とするものであるとするが、本来権利の確定とは法律上においてのみ確定するものであり、合理的に確定するものではない。原判決の言う合理的なものというのは、収益の実現基準そのものであって、その内容は、確定として合理的なものではない(一審判決二〇枚目裏八行目、原審判決一四枚目表九行目)。しかし原判決はこれを合理的な権利の確定として取り扱っているのである。従ってこの合理的な確定というものは、極めて不明確で漠然としており、なんら収益実現の基準ともなり得ないものである。例えば原判決は、船積みを完了すれば、その時点以降は何時でも、取引銀行に為替手形を買い取ってもらうことにより売買代金の回収を図り得るという実情にあるから、船積時点において、売買契約による代金請求権が確定したものとみることができる(一審判決二五枚目表末行より裏五行目まで)とする。取引銀行に為替手形を買い取ってもらわないと、売買代金を入取(まだ代金請求権は確定していないので回収ではない)し得ないのに、何が故に船積みを完了しただけで売買代金請求権が確定したといえるのであろうか、若しこのような論理が成り立つならば、注文品の生産が完了すれば、何時でもこれを買主に引渡し、代金を請求し得る実情にあるから、生産の完了した時点で、収益が実現し、代金請求権が確定したとして収益計上するという会計処理も合理的になることになる。若しこの場合、船積みの時に収益を計上しようとしても、既に生産完了の時に代金請求権は確定しており、船積みは代金請求の一過程に過ぎないから、船積時点では、収益計上基準とすることはできないことになる。このような会計処理が許されないことは明白である。生産完了の時点で収益が実現したとみられないのは、未だ引渡がないからであり、船積み時点で収益が実現したとされるのは、船積みによって引渡があったとされるからである。権利の確定や権利の実現があったからではない。

上告理由第四点 一、船荷証券、保険証券等を添えて取り組む荷為替は、商品と引き換えに買主の手形引受を取引銀行に依頼するため、銀行を受取人として、為替手形を振り出す行為であって、遠隔地にある買主との間で、銀行を媒介とし、商品と商品代金を同時に決済するための遠隔地売買の一方法である。荷為替取組基準は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準において適正な収益計上基準として認められている。その理由は、荷為替取組時点において、商品を表彰する船荷証券を、銀行を通じて買主に引渡すため銀行に引渡すものであり、適正な収益実現基準としての商品引渡基準に該当することにある。

平成五年一一月二五日最高裁判所第一小法廷判決裁判官味村治及び裁判官大白勝の反対意見はこれと同旨である。

二、これに対し原判決は、次の通り商品の引渡に該当しないとこれを否定している(原審判決一五枚目裏五行目より同七行目まで)。

1.この船荷証券の交付は、売買契約に基づく引き渡し義務の履行としてなされるものではなく、為替手形を買い取ってもらうため担保としてこれを取引銀行に提供するものである。

2.商品の船積みによって売買代金請求権は既に確定している。

3.売買代金相当額を回収する時点での収益計上である。

4.その収益計上時期を人為的に操作する余地を生じさせる。このような利益計算は法人税法の企図する公平な所得計算の要請から是認しがたい。

三、このような原判決は次の通り、全く理由のないものである。

1.船荷証券の引渡は、売買契約に基づく引き渡し義務の履行である。船荷証券の引渡がなければ、買主はこれにより商品を受領することができず、それが売主の責めに帰する場合は、売主は損害賠償義務を負わねばならない。

売主は為替手形の振出人に過ぎず、支払人は買主である。銀行がこの手形の買取に応ずるのは、買主側の銀行による信用状があるからである。船荷証券は信用状の定めるところにより、銀行に引き渡されるのであって、銀行を通じて買主に引き渡されるのであって、買主に対する引渡と同視されるのである。担保として質権が設定され、手形の不渡に際し換価されるものではない。

2.上告理由第二点で述べた通り、権利確定基準により、船積みにより権利は既に確定しているとすることはできない。船積基準も商品引渡基準に該当し、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準として、適正な収益計上基準と認められるものではある。しかし荷為替基準も又適正な収益計上基準であって、そのいずれを採用するかは、継続性を条件として、企業の自主的選択にゆだねられている。従って、船積基準が適正な基準であるからといって、荷為替基準が不適正な基準とはならない。

しかし船積基準が適正な船積基準であるといっても、自社の船積みを当然の前提としているのであって、他社の船積みまでこれを基準とすることはできない。未だ船荷証券も入手せず、手形の引き受けもしていないのに、他社の船積みによって仕入にすら計上することはできないのであって、これを売上収益に計上することなどできない。第一何時船積みされたかは不明であり、船積時点でこれを仕入や売上に計上することなど不可能である。未だ船荷証券等の取得もなく、買い付けたといい得ないにもかかわらず、その船積を以て自社の船積と同様、収益に計上すべきであるとする原判決(原審判決一五枚目裏八行目)は、全く暴論というべきである。

3.荷為替取組基準は代金回収基準ではない。

4.荷為替取組基準は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準であり、継続性の原則を遵守する限り、なんら利益操作にはあたらず、課税上の不公平を生ずることは有り得ない。

結論 上告人が採用しこれにしたがって収益を計算している荷為替取組基準は、商品の引渡を以て収益実現とする基準であり、法人税法二二条四項に定める一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に該当する基準である。

然るに披上告人はこれを不適法とし、船積基準によりこれを更正した。原判決は、収益の実現は収入とすべき権利が確定した時であるとし、何時権利が確定するかは、その取引の経済的実態より合理的に判断すべきであるとし、輸出取引形態にあっては、船積みによってこの権利は確定し、荷為替の取組は、船積みによって確定した権利の回収であるから、これを収益計上基準とすることはできないとし、船積基準に更正した被上告人の処分を適法とした。

しかし、各上告理由の通り、収益の実現は、商品の引渡を基準とすべきであり、その取引による経済的実態に応じた合理的な基準によるべきではない。このような基準は、漠然として不明確であり。一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の一属性を述べたものにすぎず、全くの野放しの基準である。しかも、収入とすべき権利の確定が、取引の経済的実態よりみて合理的であるとする何の論証もない。原判決は、収益実現の意義を誤り、しかも飛躍した論理で、収入とすべき権利の確定が収益計上基準であり、輸出取引形態にあっては、権利の確定した船積基準によるべきであり、商品引渡基準は問題とならず、荷為替取組基準は、船積みにより既に確定した権利の回収であるから収益計上基準とすることはできず、被上告人の更正は適法であるとして、上告人の控訴を棄却したものである。

かかる「収入とすべき権利の確定」は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準における収益計上基準にあたらず、商品引渡基準がこれに該当する。船積基準は、収入とすべき権利が確定したものとして、これを収益計上基準とすることはできないが、商品引渡基準によれば適法な収益計上基準にあたる。しかしながら、荷為替取組基準も、引渡基準として適法であるから、この基準を継続して採用している上告人の収益を、船積基準に修正して更正することはできない。原判決及び被上告人の更正は、法人税法二二条四項に反し違法である。

よって上告人は、原判決の破棄、並びに被上告人の更正処分の取り消しを求めるものである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例